エターナル・サンシャイン

「記憶」
Eternal Sunshine of the Spotless Mind
2004年 アメリカ

 監督 : ミシェル・ゴンドリー
 脚本 : チャーリー・カウフマン
 原案 : チャーリー・カウフマン
      ミシェル・ゴンドリー
      ピエール・ビスマス
 製作 : スティーヴ・ゴリン/アンソニー・ブレグマン
 製作総指揮 : チャーリー・カウフマン/ジョルジュ・ベルマン
         デイヴィッド・L・ブシェル/リンダ・フィールズ
           グレン・ウィリアムスン
 撮影 : エレン・クラス
 編集 : ヴァルディス・オスカードゥティル
 音楽 : ジョン・ブライオン
 配給 : フォーカス・フィーチャーズ/ギャガ
 公開 : 2004年3月19日
 上映時間 : 107分
 キャスト
 ジョエル・バリッシュ : ジム・キャリー
 クレメンタイン・クルシェンスキー : ケイト・ウィンスレット
 パトリック : イライジャ・ウッド
 メアリー : キルスティン・ダンスト
 スタン : マーク・ラファロ
 ハワード・ミュージワック博士 : トム・ウィルキンソン
 ロブ : デヴィッド・クロス
 ミシェル・ゴンドリー、チャーリー・カウフマン、ピエール・ビスマスの
 3人は、この作品によって2004年度のアカデミー脚本賞を
 受賞 した。
 アカデミー賞 : 脚本賞
 サターン賞 : SF映画作品賞
 英国アカデミー賞 : 編集賞、脚本賞
 セントラル・オハイオ映画批評家協会賞 : 脚本賞
 英国エンパイア賞 : 英国主演女優賞
 カンザスシティ映画批評家協会賞 : 脚本賞
 ラスベガス映画批評家協会賞 : 脚本賞、主演女優賞
 ロンドン映画批評家協会賞 : 英国主演女優賞、脚本賞
 ナショナル・ボード・オブ・レビュー : 脚本賞
 放送映画批評家協会賞 : 作品賞、主演女優賞、監督賞、
  脚本賞、編集賞


もうすぐバレンタインという季節。
平凡な男ジョエルは、恋人クレメンタイン(クレム)と喧嘩をしてしまう。
何とか仲直りしようとプレゼントを買って彼女の働く本屋に行くが、クレムは彼を知らないかのように扱い、
目の前でほかの男といちゃつく始末。ジョエルはひどいショックを受ける。
やがて彼はクレムが記憶を消す手術を受けたことを知る。
苦しんだ末、ジョエルもクレムの記憶を消し去る手術を受けることを決心。
手術を受けながら、ジョエルはクレムとの思い出をさまよい、やがて無意識下で手術に抵抗し始める・・・。
「記憶除去手術」を受けた男女を主人公として、記憶と恋愛を扱った作品。
原題は、劇中でメアリーが暗唱するアレキサンダー・ポープの詩にちなむ。




終わってしまった恋の思い出を捨てた彼女と捨て切れなかった彼の、
かけがえのない楽しかった日々を辿っていく切ないラブ・ストーリー。

「ヒューマンネイチュア」の脚本・監督コンビ、チャーリー・カウフマンとミシェル・ゴンドリーが
奇想天外なストーリーを、コミカルなタッチも織り交ぜながらユニークかつ巧みな作劇で語っていく。
主演は「グリンチ」のジム・キャリー。共演は「タイタニック」のケイト・ウィンスレット。

バレンタインデーを目前にしたある日、ジョエルは不思議な手紙を受け取った。
そこには、最近ケンカ別れしてしまった恋人クレメンタインについてこう書かれていた。
“クレメンタインはジョエルの記憶を全て消し去りました。
今後、彼女の過去について絶対触れないようにお願いします。ラクーナ社”。
仲直りしようと思っていた矢先にそんな知らせを受け、立ち直れないジョエル。
そして彼も、彼女との記憶を消すことを決意し、ラクーナ医院を訪れる。
そこでは、一晩寝ている間に脳の中の特定の記憶だけを消去できる施術を行なっていた・・・。




主演のジム・キャリー、ケイト・ウィンスレットばかりでなく、他のキャストも豪華絢爛。
「ロード・オブ・ザ・リング」で主人公フロドを演じたイライジャ・ウッドが、まったく違うタイプのキャラクターで登場し、
一瞬「見たことあるぞ・・・あっ、フロドだ」って気づかないほどだったり。
「スパイダーマン」の恋人MJ役で知られるキルスティン・ダンストも、「こちらの方がむしろハマリ役だ」と思わせたり。
ただ、「タイタニック」のケイト・ウィンスレットが髪を原色に染めたり(物語内では意味を持っているのだろうが)
とっぴなアメリカ娘を演じているのだが、イマイチ似合わない・・・。
誠実なジム・キャリーと恋に落ちる説得力に欠ける。ケイト・ウィンスレットは上品過ぎるのだ。
まあ、だからと言って誰がこの役に似つかわしいかは浮かんでこないのだが・・・。

また脚本の、私はその名を知りませんでしたが、チャーリー・カウフマンが映画関係者を唸らせている。
私もかねがね「映画は一に脚本、二に監督、三にキャスティング」と思うところが強く、
「アカデミー作品賞はアテにならないが、脚本賞にハズレはない」と思っているクチだ。
この映画の素晴らしさは脚本によるところだと、私は強く感じている。
現実に「特定の記憶だけ消し去る」なんてSF的なストーリーになりがちだが、
その設定に無理が感じられない。むしろ、現実的にさえ思えるから、切なさが痛いほど伝わるのだと思う。
恋愛のせつなさ、人間の不完全さという本質を見事に浮き彫りにしている。
脚本の勝利だと思える所以である。


ところで。もし失恋の記憶を消せるとしたら、あなたはどうしますか?
主人公は、あまりにつらいその記憶を一時は消そうとするのですが、消去作業中に彼女との幸せだった日々を
思い出し、心変わりをします。しかし時すでに遅し。主人公の体自体は完全な眠りに落ちているため、
施術者側にその思いを伝えることができないままあがく(途中での中止不可)。
このままではかけがえのない大切な記憶が消されてしまう!
記憶を守るために、記憶の領域外(恋人が現われる幼き日)に逃げ込んだり、
あらゆることを試みて抵抗するのですが、ついに探し出されて、完全に記憶を消されてしまう。




人の記憶は実に曖昧である。
当時は消し去りたいと思うほどツライ思い出でも、時が経てば「よき思い出」になっていたり、
それとは反対に、当時の楽しかった思い出が、現在の自分を越えていたりすると、
なつかしむ思い出がツラク感じたりするものだ。
映画の言わんとすることは、「人間は不完全な存在」なのだ、ということなのかもしれない。
お互いを尊重しながらも、受け入れられないこともあれば、衝突することだってある。
それでも、一緒に時間を紡いでいくこと。そうして、ようやく見えてくるものがあるんだ、ということ。
何度でも「許しあう」ことの大切さ・・・そんなことを感じさせてくる映画だったように思います。
とは言うものの、頭で分かってても実際はそれができないところが人間のもどかしさだ。
記憶は必要だが、消したい記憶も確かにある。
もちろん、私にだってたくさんある。
それでも、全部を引き受けて生きていくのだ。
消したい記憶も今の私を作ってる一部なのだから。
時には、消したい記憶が消化しきれずに、ひねくれ者になってるかもしれないし、極悪人に変貌させてしまうかもしれない。
そんな時、‘あたたかい記憶’は、人生の途中で起こる辛い出来事を乗り越えてゆけるエネルギーを持っているものだ。
それは単に‘記憶’というより、‘あたたかい感覚’として残っているもので、
熱さをもって、匂いをもって、ぬくもりを感じさせてくれる。
その‘あたたかい記憶’を消してはならない・・・。

まずは、理屈抜きで、楽〜〜〜に身をゆだねて‘感覚’の目で見て欲しい映画だと思います。


(2014年12月記)