カンフー・ハッスル

「達人になりたい」
功夫 KUNG FU HUSTLE 2004年(中国・アメリカ)

チャウ・シンチー
(シン)
ユン・ワー
(家主)
ユン・チウ
(家主の妻)
ドン・ジーホワ
(麺打職人)
シン・ユー
(人足)
チウ・チーリン
(仕立屋)
ジア・カンシー
(琴奏者)
フォン・ハックオン
(琴奏者)
ブルース・リャン
(火雲邪神)
チャン・クォックワン
(斧頭会の組長サム)
ティン・カイマン
(相談役)
ラム・シュー
(斧頭会の副組長)
ラム・ジーチョン
(シンの相方)
ホアン・シェンイー
(フォン)
フェン・シャオガン
(鰐革命の組長)

上映時間 : 103分
 監督 : チャウ・シンチー
 製作総指揮 : ビル・ボーデ
         デヴィッド・ハ
 音楽 : レイモンド・ウォン
 脚本 : チャウ・シンチー
     ツァン・カンチョン
     ローラ・フオ
     チャン・マンキョン
 配給 : ソニー・ピクチャーズ
     エンタテインメント


カンフー映画はこれまでたくさん観てきたけれど、これまでのマンネリから抜け出した、
久々におもしろいカンフー映画と出会いました。
公開当時から話題の映画ではありましたけど、「いつもの・・」「お決まりの・・」と思い込んで
さして期待もしてなかった、というのが本音です。
これまでのカンフー映画がつまらなかったという訳ではありません。
ブルース・リーは革命的でしたし、リー・リンチェイの武術は本物ですし、
ジャッキー・チェンだって酔拳はじめ武芸をおもしろく演出していた。
だけど、ストーリーはどこか地に足がついていて、どれも結末の想像がつくものばかり。
そして、それはいつしかマンネリ化していたように感じる。
ところが、カンフー・ハッスルは奇天烈だった!
だからといって「ありえねー」ばかりではなくて、武芸を習得したものが見せるアクションだった。
とにかく、おもしろい!
何度観ても飽きない。何度観てもおもしろい。
新境地のカンフー映画だったのでした・・・


チンピラのシン(チャウ・シンチー)は、街を牛耳るギャング団、斧頭会に入ることを目標に、カツアゲに精を出している。
シンが、貧民街のアパート、猪籠城(豚小屋砦)で悶着を起こしていると、そこへ斧頭会がやってくるが、
カンフーを極めた住民があっさり撃退してしまった。
斧頭会は報復のため刺客を放つが、平和を守ろうとする最強の家主夫婦(ユン・ワー、ユン・チウ)に倒される。
斧頭会はシンを仲間に引き入れ、狂気の殺し屋と呼ばれる達人(ブルース・リャン)を招く。
家主夫婦と達人の壮絶な闘いを前にしたシンは、自分の中で、何かが目覚めるのを感じていく・・・。

悪に立ち向かい、世界平和を守る正義に目覚めたシン。
幼少の頃聞いた「我行かずして誰が地獄へ行く」の言葉。
殺し屋達人との戦いの直前、家主の妻が発した「私が行かないで誰が地獄へ行く、だ」を聞いたときから、
シンの中で、何かが変わった・・・。


この映画を「ありえねー」と一言でかたづけてしまうのは、どうでしょうか?
私的には「ありえなくもない・・」と思ってしまったのですが・・・。
そりゃ、ワイヤーやVFX効果を駆使した動きは実際にはできませんよ、空飛んだりね。
「如来神掌」使うとかもね。「ありえねー」なんだけど・・・、
そうじゃなくて、猪籠城(豚小屋砦)の住民三人が使った拳法であるとか、
家主の太極拳「捨己従人」の精神であるとか・・・ところどころは存在するじゃない?
しかも、本格的だったしね。
特に私が「これは!」と思ったのは粥麺屋の主人、五郎八卦棍。
脚元が安定してたし、棍棒さばきも美しく決まっていた。
一体、どんな役者さんなんだろう?って。
あとは家主の太極拳ね、ふたりの刺客を引き落とす時に、最後まで手を放さないで地面に叩き落とす技は
‘海底針’をおもわせたし、柔よく剛を制す!が見事に表れていた。
ふたりを引きずってできた足跡が‘八卦双魚’だったところも見逃せないっしょ!
鉄線拳が‘剛の中に柔あり’なら太極拳は‘綿に剛を包む’強さ。かっこいいねえ。
最後の決めポーズは‘白鶴亮翅’すか?
マトリックスでも最後の決めポーズは‘白鶴亮翅’だったっけね・・・。
え?
マトリックスの武術指導と同じ人が担当?
あっそ、やっぱりね。

ところで、八卦棍の粥麺屋と太極拳の家主、一体どんな役者さんなんだろう?
アクション俳優には違いないのだろうが、どんな経歴なのだろうか?武術を学んだ人?それとも京劇役者?
えっと・・・チャウ・シンチー監督のインタビューによれば・・・
え?
監督がチャウ・シンチー?
あれ?
主役も同じような名前じゃなかったっけ?
チョウ・シンチー?
周星馳、って書くでしょ?これは、チョウだよねぇ。
チャウとチョウ?紛らわしいなあ・・・
うわっ!
げっ、やっぱり同じ男じゃん!
そうだったのか・・・
え?
少林サッカー?
あれも、チャウ・シンチー?
てことは監督、主演?
へえ・・そうだったんだ・・・知らなかった。


チャウ・シンチー
1962年6月22日生まれ 香港出身
「カンフーの達人になるのが一番の夢、俳優は二番目」という。


チャウ・シンチーQ&A2005年東京
Q:この作品の奇想天外なストーリーはどのようにして誕生したのでしょうか。
まずカンフー映画を幼い頃からずっと撮りたいと思っていたんだ。
そして物語の舞台となる猪籠城(豚小屋砦)のようなところで僕は育ったので、
このアパートを舞台にカンフー映画を作ってみようということで構想を練っていったよ。

Q:映画には個性豊かなキャラクターが登場しますが、大家の奥さん役のユン・チウさんは
28年ぶりのスクリーンへのカムバックで、しかも15キロの体重増加に挑戦していますね。
僕がお願いして、彼女には体重を15キロ増加してもらったよ。
というのもこれまた僕の子供の頃の記憶の中で、猪籠城(豚小屋砦)のようなアパートに
とても太っているおばちゃんがいて、もうその巨体を揺すりながらマージャンする様なんてスゴイ迫力でさ!
その印象が強くて、なんとかこのおばちゃんのような女性をスクリーンに登場させたいと思ったんだ。
でもユン・チウは、むしろやせているぐらいの体型だった。
そこでどうしても太ってもらいたくて「とにかくよく食べ、よく飲め」とお願いして(笑)、
ボディ・ビルダーが飲むようなプロテインなんかを飲んでもらったら、どんどん体重が増えて・・・。
まさにイメージどおりに増量してくれたよ(笑)。もちろん今は元の体型に戻ったけどね。

Q:最強の殺し屋として、あのブルース・リャンさんも登場していました。
彼はたくさんのカンフー映画に出演している、僕が大好きなアクション・スターなんだ!
僕がカンフー映画を撮るなら、彼に出てもらわなきゃはじまらないと。
だから彼と共演できたことはとてもいい経験になったね。
彼について一つ語るべき逸話があるから教えてあげよう!
彼はね、街角で本物の喧嘩を500回もしているんだよ。
その話を最初に聞いた時、暴力的な人なのかな、怖いのかな、と思ったんだ。
でもいざ会ってみたらとにかく元気であの年齢(56歳)にも関わらず、力が満ちあふれていてね。
そして何かを追及しているところが感じられて、その姿はまさに武術家で、僕は感動したよ!

Q:映画にはさまざまな達人が登場し、演じた俳優たちもアクション畑の人ばかりでした。
もし、この俳優たちが本当にバトルを繰り広げたら、誰が一番強いでしょう?
やっぱりブルース・リャンだろうね。あっ、もちろん僕を除いてね(笑!)

Q:シンチーさんはブルース・リーさんが大好きということですが、もし彼が生きていて、
彼主演で映画を撮ることができたらどんな作品を撮りたいですか。
この質問に答えるには、(すごく真剣な眼差しで)とてもたくさんの時間が必要だね。
実は、考えたことがないんだよ(笑)!このことは内緒にしてね(笑)。

Q:ところで今回『カンフーハッスル』で初めてハリウッドとコラボレートしてみて、いかがでしたか?
ハリウッドとコラボレートしたおかげで、豊富な資金と優秀なスタッフのサポート得ることができたよ。
メリットはたくさんあったけど、デメリットは全くなかったね。

Q:次回作の構想はいかがでしょう。日本ロケや日本の俳優の起用とか考えたことはありますか。
そうだね、チャンスがあればぜひ日本ロケもやってみたいし、日本人の俳優を登場させたいね!

Q:シンチーさんはなんと42歳なんですよね。でもこれからもアクション映画に挑戦しつづけてくれますよね?
そうなんだよ、もう42歳で、この歳になるとアクションはキツイんだよ(笑)。
えっ、まだがんばって欲しいって?じゃぁ、力を尽くしてがんばろうかな(笑)。
でもこの歳でアクションなんて、ホント自分でも無理をしていると思うよ。
それに映画界の今後を考えると、若い世代の人がもっと力を発揮するべきだと思うんだ。
若くて新しい血の流れが入ることで、また業界全体が活性化されると思うしね。
若い人が活躍できるような環境を僕は作っていきたいと思っているよ。
だから若い皆さーん、がんばってください!

映画では激しいアクションを披露したチャウ・シンチー。
ところがインタビュー会場に現れた彼の髪には少し白髪が混じり、とても落ち着いた物腰の男性だったという。
伝説の殺し屋役に、15年ぶりの映画出演となるアクション俳優、ブルース・リャンが登場するなど、
1970年代から活躍してきたカンフー俳優たちを起用して、
ワイヤーを始めとするVFX効果と組み合わせた華麗な闘いを披露してくれた。


そっか・・・
42歳、インタビューが4年前だから、現在46歳か47歳。
ブルース・リャンが56歳ということは、現在は60歳になったね?

チャウ・シンチーがカンフー・ハッスルで見せた、目覚めてからのアクションシーン。
スローモーションで斧から身を避ける時の、ホンのちょっとの足の移動で攻防する、それは家主が見せた、
他人の力を吸収して、自分は脱力したまま相手にそのまま力を伝え、相手の力を利用して倒すのと同様、
中国武術の真髄ともいえる動きだ。靠(カオ)の攻撃は、惚れ惚れするね!
「この歳でアクションなんて」って、そりゃ、アクションするのはキツイと思う。
だからこそ、一瞬の動きで勝負する、武術の妙技を見せて欲しいな、と思うのですが。
スクリーンでは地味すぎてマニアにしかウケないかも知れないけど・・・(笑)
「カンフーの達人になるのが一番の夢、俳優は二番目」のチャウ・シンチーならば、
あながち、この話し「ありえる」話しじゃないの?



あ、それと。
武術の修業中に発狂してしまったという設定の火雲邪神だが、これだって「ありえる」話しだ。
武術の修業は厳しく、その習得は生易しいものではないのだから・・・。

それに。
映画の最後に‘如来神掌’の使い手シンに負けて教えを乞う、これも「ありえる」話しだ。
上には上がいる。自分だけが出来るつもりになっているのは半人前の証拠。
達人は常に謙虚で、自分を高める鍛錬を怠らない。
もし、教えを乞うて指導してもらえるならこんな幸せなことは無い、と思わねば。
真に厳しく指導してくれる老師ほど、貴いものはないし、
教えを受ける者として、厳しく指摘してもらえるなんて、こんなありがたいことはない。
なぜなら、教えを乞うても、真に教えてくれるかどうかは習う側の姿勢にかかっているのだから。
「学びたければ教えてやる」は如来の言葉なのだろう。

最後にもうひとつ。
神出鬼没、武術の教本を手に、世界平和スカウトに現われる仙人(風?)の教本が100毛から値上がりしてない!
(ちなみに猪籠城(豚小屋砦)の家賃が300毛)
tuzi「100毛なら私にもゆずってくれませんかぁ?なんでしたら全冊まとめて・・・」
って、こんな腐った根性だから、武術が上達しないんだよ!
こんな根性なしのところに教本片手の仙人は現われないよね。とほほ・・・
買っておしまい、練習もしないで達人になれるわけないじゃないよ・・・
はっ!?
映画じゃなくて、私の武術上達が「ありえねー!」かよ・・・(涙)


(2009年9月記)