ペパーミント・キャンディー

「転落」
PEPPERMINT CANDY 1999年 韓国=日本

 製作 : ミョン・ケナム/上田信
 監督/脚本 : イ・チャンドン
 出演 : ソル・ギョング
       ムン・ソリ
       キム・ヨジン

(129分)
 第37回 韓国大鐘賞 主要5部門


何もかも失った男。
ここにいたるまでの男の20年を遡る。

今現在、男は全てを捨てる決心をした。男の脳裏には様々な思い出が蘇る・・・
5年前、自ら放棄してしまった家庭。
15年前、互いに想いを寄せていながら別れた恋人。

そこには韓国の政治状況が深く関わっていた。
だが、男はこれまでの人生を通じて、選ばなかったことで失ってしまった大切な時間を想う。


私はいつも思っている。
人はいったん箍(タガ)がはずれると転落の一途を辿るのではなかろうか・・・と。

以前は地位ある職業について、家庭もあったのにホームレスになってしまった人・・・
フトしたきっかけで学校を一日休んだだけなのに、登校拒否になってしまった子供・・・

私たちは知らず知らずの小さい選択の繰り返しの連続で生きている。
そういう選択の中に、人生を大きく変えてしまう‘ここぞ!’というターニングポイントが存在する。

肝心の踏ん張りどころで、自分を投げ出してしまって、
「どうにでもなれ・・」
「どうでも、いいや・・」
と思った瞬間、人生が一変する。

時間は戻せない

ターニングポイントに還ることはできない。
残された道は巻き返しと、切り替えの気持ちだけだ。


逆に‘生きる活力’を与えてくれるポイントも存在する。
辛い時に、自分が踏ん張った、自分をあきらめず投げ出さなかった記憶。

映画の男にはその記憶がなかった。
記憶は15年前のポイントを悔いていることだけだった。
あの時、恋人に渡したペパーミント・キャンディー・・・
男の人生は、15年前にはずれた箍を戻すことができず、転落しつづける・・・




男は努力しなかったわけではない。
仕事でも成功し、幸せな家庭も持った。
だけど、新たなターニングポイントを迎えるたび、15年前に立ち戻ってしまい、選択を誤る・・・
肝心なところで踏ん張れない、留まることができない・・・

男の15年前のようなポイントは誰にでも存在しているだろう。
心あたりはありますか?
でも・・・
どんなに悔やもうと、

時間は戻らないんです

どんなに悔やんでもいい
そういう悲しみをぜーんぶ背負って生きるんです
それが人生というものでしょう?

私はそう思っています・・・。
男のように、あるポイントから進めなくなったという気持ちは、私にだって理解できる。
だけど・・・だからって、死ねば全てがクリーンに清算される、という、その甘えた考えが気に入らないのだ。
どんなに転落しようとも、‘人は生きてこそなんぼ’なのだと思うから。


<tuziがこれから観たいと思う韓国映画>
1980年「カッコーの啼く夜 別離」 韓国大鐘賞 主要9部門
1986年「シバジ 快楽の報酬」 イム・ゴンティク監督 ヴェネチア映画祭主演女優賞カン・スヨン
2000年「魚と寝る女」 キム・キドク監督


(2003年4月記)