運動靴と赤い金魚

「あたたかい心」
BACHEHA-YE ASEMAN 1997年 イラン

 監督/脚本 : マジット・マジディ
 出演 : ミル・ファクロ・ハシェミアン / バハレ・セッデキ
       アミル・ナージ / フェレシュテ・サラバンディ
       ダリウシュ・モクタリ
 モントリオール国際映画祭 グランプリ
 イラン映画初アカデミー外国映画賞候補
(88分)


アリ少年が妹ザーラの修理したての靴を紛失してしまう。
家計が苦しくてそのことを両親に言い出せない彼らは、一足の靴を替わりばんこに履いて学校に通うことに。
そんなとき小学校のマラソン大会が開催され、アリ少年は賞品の運動靴を獲得するため3等賞をめざすが・・・

マジット・マジディ監督は知人に聞かされた実話をもとに脚本を執筆したという。


家の手伝いもよくする妹思いのアリ少年は勉強もできる優等生。
お使いの途中で市場で買い物をしているうち、修理に出していた妹の靴を置き忘れてしまう。
あわてて戻ったがゴミに回収された後だった。
捨てられてしまうほど、ボロボロの靴だったが、貧しいアリの家では修理して履きつづける・・・
妹ザーラは兄のぶかぶかの靴を履いて学校へ。
そしてダッシュで戻り、通学途中で待ってる兄と交替して今度はアリが学校へ。
(低学年の妹は早く下校する)
時にはぶかぶかの靴が脱げて川に流されたり・・・

やがて、アリは遅刻が目立つようになる。
校長にとがめられるアリ少年を担任の先生がかばってくれたり・・・
ある日、テストの成績の良いアリは先生からご褒美にペンをもらう。
その貴重な文具用品を、すねている妹にプレゼントしたり・・・

妹は同級生の刺繍されたカワイイ靴を羨ましく思い眺めていると、兄が紛失した自分の靴を履いている少女を発見してしまう。
返してもらおうと直談判を考えたザーラは、下校してから少女を尾行する。
すると、その少女の家は自分の家よりも惨めな暮らしなのだった。
少女のお父さんは、屑物回収をしている盲目の人だった。
それを目にしたザーラは「返して欲しい」と言えなくなってしまったのだった・・・




ついに兄アリの遅刻から靴がないことが、両親の知るところとなってしまった。
お父さんは、娘ザーラに新しい靴を買ってあげようと仕事に張り切るが、まぬけなお父さんは、自分が怪我をしてしまう・・・

アリ少年は学校で開かれるマラソン大会の3等の賞品がスニーカーと知り3等賞狙いで走ることに。
1等賞になってはいけない。3等にならなければならないのだ。
1等の賞品はキャンプに招待だが、そんなものはいらなかった。
運動靴が欲しいのだ。

アリ少年は懸命に3等を狙って走ったが残念なことに1等になってしまった!
がっかりするアリ少年・・・


イラン映画は以前から好きだった
「心」が感じられるからだ
人を思いやる心、やるせない心がイラン映画には生きている




間違って友達のノートを持ち帰ってしまった少年が「宿題ができないだろうから・・・」と友だちを思いやり、
迷子になりながらもノートを届ける「友だちのうちはどこ?」(1987年)アッバス・キアロスタミ監督




妻に先立たれた父は盲目の息子を盲学校に預けている。
父は再婚を考えているが、この子がいたら嫁のきてもない・・・
息子の将来を考えると、手に職を付けさそうかという考えも浮かぶ・・・。
夏休みに家に帰っていく友人たち。父はなかなか迎えに現われない。不機嫌に迎えに来た父。そして少年は・・・
マジット・マジディ監督の「太陽は、僕の瞳」(1999年)では父の葛藤。
祖母、妹の家族愛、自然に囲まれて優しく育った少年の悲哀が描かれている。

イラン映画には現代日本が失いかけている
人間の悲哀が静かに語られている


(2003年4月記)