ストレンジャー・ザン・パラダイス

「漂流する日々」
STRANGER THAN PARADISE 1984年 米=西ドイツ

 監督/脚本 : ジム・ジャームッシュ
 音楽 : ジョン・ルーリー
 出演 : エスター・バリント / ジョン・ルーリー
       リチャード・エドソン

(90分モノクロ)
 1984年カンヌ映画祭カメラドール
       最優秀新人監督賞
 ロカルノ国際映画祭グランプリ
 全米映画批評家協会最優秀作品賞


16歳になるエヴァは新しい生活を始めるためハンガリーから単身渡米。
お気に入りのジェイ・ホーキンスの音楽をガンガン鳴らしながら、人気のない見知らぬニューヨークを歩き、
もう10年来ここに住みついている、いとこのウィリーの部屋を目指す。

エヴァ、ウィリーそれにウィリーの賭博仲間のエディの奇妙な関係は、何も起こらない日常を漂うだけ・・・

生活の場でも、旅行に出ても無彩色の空間はどこも同じで、3人は目的を失いギクシャクするばかり・・・

でも、若い頃の手探りの友人関係って私もこの感覚に近かったように思う。
10代の頃なんて、将来のことも漠然としすぎてて、確固たる信念なんてなかったし、
ただ、ふわふわ漂うように生きていた。
平凡な日常の繰り返しで、特別それに不満も持たなかったし、疑問にも思わなかった。
だから、そんな若者たちがモチーフで映画になったことに当時、衝撃を覚えた記憶がある・・・


目の覚める新鮮な感覚だった。
天国(パラダイス)よりも不思議(ストレンジ)な現代アメリカに生きる3人のストレンジャー・・・。

3人の若者を描いている映画なのに、アクションにもスリルにも無縁で、無機質な日常、
ギクシャクしたかみ合わない会話の連続・・・
やる気のないけだるさ・・・しらけきってる3人・・・
若者3人の生活は漂泊をつづるだけで、どこへもたどりつきそうにない。

音楽は弦楽四重奏曲と3拍子のロックンロール。
単純なワンシーン・ワンシーンが暖かい共感の笑いを呼び起こす。

いとこのウィリーとその友だちのエディは競馬やばくちでどうにか食っている。
エディは気が弱いくせに調子がいい。
エヴァがクリーブランドに行くと聞くと、「いい町だ。エリー湖が美しい」というが、実は行った事がない。

いとこのウィリーがクリーブランドに行くエヴァに安物のドレスをプレゼントしたりする。
気持ちは嬉しくても、気に入らなかったドレスをアパートを出た後、エヴァが捨てているところにエディが通りかかる。
エディはエヴァと出合ったとだけ話す。
きれいなドレスを着てただろ、と聞くウィリーに、きれいだった、と答えるエディ。

こんな会話が見るものをとらえていく・・・


監督ジム・ジャームッシュは1953年オハイオ州生まれのアメリカ人。



「ハンガリーに行ったことは?」
ない。エヴァを演じたエスターはハンガリー人だ。
でもこれはエスターの物語ではない。まず、彼女はこの役をやりたがらなかった。
あまりに彼女の立場に似ていたからだ。でも、僕はどうしてもハンガリーにしたかった。
僕達は東ヨーロッパというのは本当にもの悲しいところだと教えられていたから、
この映画にでてくるジョークはすべてそれを裏切るものにしたんだ。

「アメリカについて何を示したかったのだろう?」
第一に僕はキャリア・アスピレーション(出世)を目指している人の映画を撮ることに全く興味がない。
僕のどの映画もテーマとしてあるのが、そうしたキャリア・ハッスル(出世主義)の外側にいる人々なんだ。
アメリカは、高い地位を戦ってとる人々の国だということに普通なっている。
この映画の中の金銭の考えというのは、だましたり、ワナにはめたり、偶然によってそれを掴むことだ。
つまり、アメリカを通常そう思われているようには示さないことで、アメリカに異質の光をあててみたかった。
形の上でこれはとても非アメリカ的な映画だけれど、テーマの上ではかなりアメリカ的だと思う。


私は映画館に見に行った時は、できるだけパンフレットを買うようにしているし、普段はほとんど読まないが、
雑誌でも「映画特集」なんていうときは買ったりもする。
たまたま、95年の雑誌で「映画特集」があった。
そこに、なんと「私が選んだ映画ベスト10」のメモを見つけたのだ!
(そんなこと、書いたなんて・・・見つけた私がビックリ!)

それによると、私の95年に選んだ映画ベスト5は・・・
第5位 存在の耐えられない軽さ
第4位 愛に関する短いフィルム
第3位 パルプ・フィクション
第2位 ニュー・シネマパラダイス

そして、堂々の1位が
ストレンジャー・パラダイスだった・・・


(2003年5月記)